正直しんどい

140文字では書ききれないパッション

安藤忠臣という男

 映画の中でもとくに邦画が好きで、その中でさらに人間の愚かさや怖ろしさを描いたものを選んでよく観ている。そういった要素が詰め込まれた「闇金ウシジマくん」は漫画もドラマも何度も観て映画シリーズ履修済みである。丑嶋社長はダークかっこいい。

 闇金ドッグスというタイトルを目にしたとき、闇金という言葉がついているコレもウシジマくんと似た系統の話なんだろうな~とぼんやり思っていた。

 私はアマゾンプライムを利用しているのでそこで映画を選んで観ることが多いが、闇金ドッグスはシリーズもので1~5までプライムに入っていた。ただ、なぜか1だけが有料になっていて、私は2以降から先に観るという暴挙に出る。1を有料レンタルするという考えはそのときなかったのである(ケチ)。

 

 2~5まで観て思うのは、主人公の安藤さんってかっこいい男だなあ。っていうことくらいで、まだキャラクターにどっぷり惚れ込むような感じではなかった。それでも寝る間も惜しんでシリーズぶっ続けで観たくらいに、その内容が刺さって面白かったのだ。

 5の結末は実際にあった事件を模している。京都伏見認知症母殺害心中未遂事件である。 この事件のニュースを見たときに感じたやるせなくて悲しい気持ちがぶり返してしまって、視聴後しばし引きずった。

 ギャグ要素も随所に仕込んであるが全体的には明るい話ではない。救いのパターンもあるし破滅したパターンもある。お金っていうのはいくらあっても助かるけど、そのために身を滅ぼすことも少なくないのだ。そんなこのシリーズを視聴し続けた結果、2018年2月現在の私は「安藤忠臣の女になった」ということをここに報告する。

 

 何故そうなったかっていうと、プライムに追加されたからだ。闇金ドッグス1が。

 

 2~5までを観ていたときには生まれていなかったこの感情が、闇金ドッグス1を観て以来大爆発を起こしてしまった。

「え? 安藤さん好きなんだけど」

 この一言に尽きる。何がどうして1を観たらここまで感情が揺れ動いたのかは分からない。でもおそらくは、部下だった男に裏切られ、銃を咥えさせられるという屈辱を受け涙を流すシーンのせいだ。 2~5では基本的にクールで物事にあまり動じない男である安藤忠臣が、1ではめちゃくちゃ人間くさい。始めたばかりの金融業に四苦八苦して失敗するし、客に逃げられボロボロになって衣食住もままなってなさそうだし、あげく部下のためにヤクザから足を洗ったのに、その部下に裏切られていた事実とともに銃を突きつけられる。そして静かに泣く……。

 中華料理屋の前で財布を確認して、空腹なのに入店するのを諦める場面で心臓がギュッッッてしてしまった。かわいそうでたまらない。でも私はそういうのに弱い。

 アンドウサン カワイソウデ カワイイ スキ。

 衝撃の闇金ドッグス1を経てから再度2~5を観返すと、1を抜かして観ていたころによく分かっていないまま流していた場面がすべて理解できるようになった。観るたびに新しい発見がたくさん出てくるのだ(2で司とスナックママの娘ななえが一緒にいるシーンは私の地元で撮影されたものだった、などなど。そういうの嬉しいね)。

 何度観ても飽きることがない。何度でも安藤忠臣を摂取したくなるのである。

 

 さて、安藤忠臣という男(と書いて沼と読む)に全身どっぷり浸かってしまった私はインターネットを駆使しレビューを読み漁ることとなる(アマゾンのレビュー欄がそんなに充実していなくてちょっと残念。各作品100個くらいレビューついてほしい)。ファンのかたの書かれたブログも何度も読んだし今も同じ記事を見返しては「わかる~」と相槌を打っている。

 そこで知ることになるのは、「闇金ドッグス」以前の安藤忠臣を描いた映画作品があるということだった。その名も「ガチバンULTRA MAX」そして「ガチバンNEW GENERATION2」。二作品ともアマゾンプライムに入っているものだったので、喜び勇んで再生ボタンをクリックした。まずはウルトラマックスのほうから。

 

 再生して三分後に私は衝撃を受けて椅子から転げ落ち、地面にめり込んで倒れたヤムチャのような体勢を取らざるを得なくなった。闇金ドッグスの安藤忠臣といえば、若干ふわっとした黒髪に少し目にかかるくらいの前髪を垂らし、基本的には冷静沈着で無表情。着ているのは黒いスーツの上下。闇犬の作中では年齢ははっきり明かされていないが、ウルトラマックスでは18歳という年齢で登場する。

 18歳の安藤忠臣は、天使のように可愛かったのだ。短い髪を金に染めて、首までジップを上げた黒い上着、ぴっちり気味のボトム。その当時の彼はヤクザのしたっぱとして働いており、大山彦組の組長の付き人をやっていた。組長にはお気に入りのスナックがあり、安藤は組長がスナックで飲んでいる間、店の外で待機している。そこでウルトラマックスの主人公である勇人と出会うのだが、安藤ははじめから勇人を敵対視する。というのも、スナックの用心棒のバイトをしている勇人の腕っぷしの良さを見た組長が、彼を一目で気に入ったことが原因だ。

 

 安藤忠臣には親から愛情を受けた記憶がない。彼がヤクザになったのは彼の母親がヤクザの事務所宛に履歴書を送りつけたためである。ニュージェネ2で語られるのだが中学時代には少年院に入っていたことがあり、高校は三日で通うのを辞めている。それだけ手を付けられない子供だったと想像がつくが、彼は親から捨てられたという思いが強く、「あいつ死ねばいいんですよ」と漏らすほど。父親については語られていないが、きっと同じように思っていることだろう。そのためか彼は人から認められたい、愛されたいという強い思いを抱えている。だから組長が安藤の誕生日を祝う言葉をかけたとき、安藤は誕生日を覚えていてくれたことに感激して声を潤ませている。このとき組長からお祝いとして一万円を渡されているけれど、安藤が喜んだのは金を貰ったことではなく自分の存在を組長に認識されていたことに対してである。勇人に敵意をむき出しにするのも、自分が得られないものをあっという間にさらっていったため。

 ウルトラマックスには18歳の安藤忠臣のことをおそらく息子のように思い可愛がっている西口という男が登場する。安藤にとっても彼は心の支えであり、兄貴と呼んで慕っている。西口は安藤に対しヤクザとしてどうあるべきかをアドバイスし、安藤もそれを逐一ノートにとって必死についていこうとする。学も無く、漢字もろくに書けない、それでも素直に慕ってくる少年。そんな姿が西口の目には微笑ましく映るのだろう。西口は自分の密かな計画を安藤に伝え、ともに成り上がろうと誘う。それは組でご法度とされている、薬の取引だった。話を聞いた安藤は戸惑い、自分のすべきことについて思い悩むことになる。

 

 ほどなくして、安藤は組長に件のスナックに一人で呼び出される。西口が行っていた薬の取引がバレていたのだ。組長は銃を出して西口をこれで始末しろと告げるけれど、当然ながら安藤はそれに頷けるわけもなく、戸惑うばかり。慕っている兄貴を撃てるわけがない。まごつく安藤を見た組長は、ふとこんなことを言った。

「そういや、お前、名前、何くんだっけかな?」

 安藤の心を傷つけるには十分すぎる言葉だ。人から必要とされたい、認められたいと常に思っている飢えた心を抱えた少年である彼は、付き従っている組長に名前すら憶えてもらえていなかったのだから(それならどうして組長は安藤の誕生日は覚えていたのだろうかとかいう野暮なことは言わない)。安藤は顔をゆがめ、涙を浮かべて嗚咽を漏らす。

 そんなときに勇人がやってきて「金が欲しい」と言い出した。勇人は病気の少女、セイラの「オーロラが見たい」という願いを叶えてやりたくて、そのために大金が要ると言うのだ。組長は以前勇人に大山彦組で働かないかと持ち掛けていて、その際には契約金も弾むと言っている。それを頼ってきた勇人に、組長は笑ってテーブルの上の銃を指した。それで西口という男を殺せと。勇人にはセイラのためなら何でもやってやるという覚悟があった。銃を手に、すぐにスナックを出ていった。

 

 ここで安藤は思う。西口を殺すのは勇人ではない、自分の役目であると。勇人を追いかけてスナックを飛び出し、安藤は死に物狂いで勇人を殴り倒し、銃を奪い取った。

「目ェキラキラした男が釣り合いする世界じゃねんだよ」

 目を血走らせた安藤はそう叫び、地面に転がって呻いている勇人を置いて西口のいる喫茶店へと走っていく。安藤と勇人、二人の生きる道はここではっきりと分かれたのだろう。

 

 喫茶店に到着した安藤は幼い子供のような声で西口のことを呼び、彼に銃口を向ける。西口は一瞬ですべてを悟り、なんで撃ちにくるのがお前なんだ……と嘆きながらも自分の終焉を受け入れ、以前「男の価値はこういうので決まるんだ」と安藤に指南してやった、自らの腕時計を安藤に差し出した。これをお前にやる、と告げてほんの少しだけ笑顔を見せた。安藤は涙を流しながら、西口から目を離さないまま、兄貴……と悲しげに呟いて引き金を引いた。

 

 安藤はこの世界で生きていくことを選び、大切な人を自らの手で殺した。

 ここですでに、この先の安藤忠臣にはひとつの生き方しか残されていない。決して幸せにはなれないのだ。親のように、或いはそれ以上に思っていた相手を撃ったのだから。この罪を背負い、どんなことをしてでも生きていってやるのだと決めた出来事でもあるだろう。そのことがはっきりと表れているのが、次に安藤忠臣が登場する作品「ガチバンNEW GENERATION2」だ。

 

 ガチバンNEW GENERATION2はウルトラマックスから一年後の設定である。19歳の安藤忠臣は姿も性格も別人のように変貌しており、その立場も頭補佐にまで昇進していた。金色だった髪を黒く染めて長く伸ばし、ひげを生やし、一年前には吸っていなかった煙草を手にしている。服装は黒いスーツに黒いロングコート。18歳の頃は兄貴分であった西口に笑顔を浮かべることもあったけれど、19歳になった彼はほぼ笑う顔を見せない。

 異例の若さでの昇進のため、脇を固める部下はみな年上ばかりであると思われ、おそらく心の底から信頼できる相手はそこに存在していない。

 ニュージェネ2の主人公は安藤の中学時代の後輩であるトキオという少年である。トキオはあるきっかけで安藤のいる事務所に連れてこられ、久しぶりの再開に喜ぶけれど、安藤は表情を変えないままトキオの頭を机に叩き付け「立場をわきまえろ」と言い放つ。「お前の中で俺は先輩のままでも、俺の中でお前はただのゴミだ」とも。トキオはその変貌ぶりに驚き、そして落胆したような顔をする。そこから察するに、トキオにとって中学時代の安藤はそれなりにいい先輩だったのかもしれない。

 

 安藤は海外から不正に入国した女をソープなどに売り飛ばす女衒業も行っていた。トキオはその仕事の一端を手伝わされるのだが、そのうちに安藤の仕事に対する不満が募っていき、こんなことを言い出した。

「女の股で稼いだ金で偉そうに街歩いて、マジ反吐出そうなんですけど」

 トキオの挑発するような言葉にも安藤は動じることなく、「お前は明日死ねるか?」と問う。恐怖から逃げた未熟なバカは死んでいく。安藤はその恐怖と言う化け物を頭から食ってやった、そうしたらこれまでの自分はいなくなったと語る。

 この仕事は望まれているから存在している必要悪であり、安藤はそれで生きていく覚悟を決めている。それ以外には生きる道はない。「これが俺の明日の飯だ」と言い放つのだ。

 

 トキオは不正入国の女の管理を任されていた。女たちと一緒に過ごしているときに語られた境遇に同情し、そのうちの一人を外へ逃がしてしまうのだが、安藤はそれをあっさりと捕まえたうえでトキオを「ば~~か」となじる。女は自国で散々売春行為をしてトラブルを起こして国内にいられなくなり、日本に逃げてきたというものだった。トキオは女から嘘の境遇を伝えられ、同情するように仕向けられていただけだった。そのことを安藤から伝えられ、そして「人は人を助けることなんて出来ねえなあ。人は人を食らうんだよ」と皮肉交じりに語りかけられる。その言葉に激高したトキオは安藤に殴りかかっていく。

 

 結局トキオは安藤との殴り合いに負けるのだが、そのとき安藤からこんな言葉をかけられている。「地元帰れ。もうこっち来んじゃねえ」と。そのとき安藤の部下からは「これじゃあ面子が立たない」といった反論をされている。安藤たちにとって大金が動くビジネスを邪魔されかけたのだから、それに対する仕打ちは本来もっと重いものだったのかもしれない。それでもトキオを殴るだけで返したのは、トキオがかつての後輩であり、安藤を慕っていたからではないかと思う。

 実際、トキオに向かって帰れと言った声はとても優しく聞こえた。

 

 そして闇金ドッグスの安藤忠臣に繋がっていく。ガチウル、ニュージェネ2を観終わった後、私は深い深いため息をついた。闇金ドッグスだけでは知りえなかった彼の過去を一気にインストールした頭は爆発寸前。思考回路はショート寸前。

 

 自分が心から慕っていた相手を殺してまでヤクザの世界で生きることを決め、恐怖に負けまいとそれまでの自分を食い殺した。18歳から19歳にかけての変貌はそのことが原因なのだろう。そして最終的に安藤は大山彦組の組長にまでのし上がっている。かつて西口が言った「ヤクザはてっぺん取ってナンボだ」という言葉をずっと胸に抱え、生きてきたからかもしれない。

 

 安藤忠臣には孤独がつきまとっている。セブンスターの紫煙をまとった孤独の存在だ。ヤクザから足を洗い選択したのは闇金融という仕事。安藤はその仕事を選ばざるを得なく、それで自分を生かしていかなければならないため、たとえかつて世話になった相手でさえ、仕事の金が絡むならば取り立てに行く。それが現在の彼にとっての覚悟だ。

 だけど根底にあるのは優しさであり、彼の弱点でもあると思う。安藤忠臣は心に空虚を抱えていて、そこを埋める愛情をどこかで求めている気がする。だから少し気を許した相手には多少甘くなるし、完全に突き放すことが出来ない。私は彼のそういうところがどうしようもなく好きだし、安藤忠臣の最大の魅力であると強く思う。安藤忠臣は、かわいそうで愛おしい。

 

 闇金ドッグスを好きになり、ガチウル、ニュージェネ2と続けて観ることが出来た私は本当に幸せだと思う。ガチバンシリーズでの安藤忠臣は主人公の敵役として存在しているが、そこから彼を主人公に据えた闇金ドッグスという作品が生まれ、いくつものシリーズとなっているのはやはり安藤の存在が制作のかたやファンの中で愛されていて、とても大きなものであったからではないだろうか。安藤忠臣がこの世に生まれてくれて本当に良かった。AMGさんありがとうございます。

 

 私は安藤忠臣の女として日々(妄想逞しく)過ごしているが、強く願うことは安藤忠臣が空腹を我慢することなく満足に食事が出来て、お風呂にゆっくりと浸かり、雨風に晒されない環境でゆっくりと眠れますようにということと、仕事を終えたあとにセブンスターを吸って一息つけますようにということ。

 ほんの小さな出来事でもいいから、彼が幸せだと感じる瞬間がありますように。ただそれだけを願っている。